9 その後、天野へのいじめはエスカレートしていった。俺はあまり関わりたくなかったが、彼から近寄ってくるので無下にはできなかったのだ。
そんな明くる日、ニキビ面のクラスメートが耳打ちしてきた。
「おい緑間、あんまり天野に近づかない方がいいぞ。アイツ、前の中学で暴力事件を起こしたらしい」
「アイツが?」
あの細くてもやしっこみたいで虫すら殺せないような天野が?想像ができなかった。
「ああ、誰かが前の中学の奴に聞いたんだとよ。それに…お前アイツの父親知ってるか?」
「……いや、知らない」
「小説家らしいぜ。前にすんげーブームになった本あるじゃん?ペンネームが雨野由紀っていうの。今じゃ落ちぶれて暗いやつばっか書いてんだぜ」
「お前…詳しいんだな」
「まあな。オレもその小説家知ってたし。中高生の中で流行ってるからな」
ふうんと曖昧に呟くと、クラスメートは「だから距離置いた方がいいよ」と言った。
…普段は喋りかけないわりに、情報を提供してくれるのは有難いな。
「青峰にも言っておいて。天野には、」
「僕が何だって?」
ニキビ面の男の背後に、微笑む天野が立っていた。いつの間に、ここに居たんだ。
「ひっ…!い、いや、別に、何もねえよ!」
「そう。ならよかった」
「天野…お前いつから」
「ついさっきだよ。ちょっと倉庫に閉じ込められてたから、授業に出られなかった…」
「倉庫に閉じ込められていた?」
俺が驚いて聞き返すと、天野はへらへら笑いながら「でも黄瀬涼太くんっていう親切な人が開けてくれたよ」と言った。
こいつの危機感の無さには溜め息しか出なかった。倉庫に閉じ込められるって、危険ではないか。
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