星屑は | ナノ



 その後、天野へのいじめはエスカレートしていった。俺はあまり関わりたくなかったが、彼から近寄ってくるので無下にはできなかったのだ。
 そんな明くる日、ニキビ面のクラスメートが耳打ちしてきた。

「おい緑間、あんまり天野に近づかない方がいいぞ。アイツ、前の中学で暴力事件を起こしたらしい」

「アイツが?」

 あの細くてもやしっこみたいで虫すら殺せないような天野が?想像ができなかった。

「ああ、誰かが前の中学の奴に聞いたんだとよ。それに…お前アイツの父親知ってるか?」

「……いや、知らない」

「小説家らしいぜ。前にすんげーブームになった本あるじゃん?ペンネームが雨野由紀っていうの。今じゃ落ちぶれて暗いやつばっか書いてんだぜ」

「お前…詳しいんだな」

「まあな。オレもその小説家知ってたし。中高生の中で流行ってるからな」

 ふうんと曖昧に呟くと、クラスメートは「だから距離置いた方がいいよ」と言った。
 …普段は喋りかけないわりに、情報を提供してくれるのは有難いな。

「青峰にも言っておいて。天野には、」
「僕が何だって?」

 ニキビ面の男の背後に、微笑む天野が立っていた。いつの間に、ここに居たんだ。

「ひっ…!い、いや、別に、何もねえよ!」

「そう。ならよかった」

「天野…お前いつから」

「ついさっきだよ。ちょっと倉庫に閉じ込められてたから、授業に出られなかった…」

「倉庫に閉じ込められていた?」

 俺が驚いて聞き返すと、天野はへらへら笑いながら「でも黄瀬涼太くんっていう親切な人が開けてくれたよ」と言った。
 こいつの危機感の無さには溜め息しか出なかった。倉庫に閉じ込められるって、危険ではないか。


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