7「青峰くん、おはよう」
「うーっす」
「緑間くんもおはよう」
「……おはよう」
天野の顔を見て一瞬返事に遅れた。青峰は机に顔を伏せているから気づかなかったのだろう。
俺の視線に気づいたのか、彼はごく自然に、笑った。
「ああ、これ?ちょっと昨日門限に遅れちゃったじゃない?それで怒られたんだ」
「大丈夫なのか…?」
「うん、大丈夫だよ。だって、僕が悪かったんだから」
「あん?何話して…沙藤っ、その傷…!」
天野の腫れた頬を見て青峰は瞠目した。腫らしている本人は、何が驚くところなのか分からないようだ。
「昨日は送ってくれて本当にありがとう」
「いや別にそれは構わねえって。その傷…」
「門限を破った罰だよ」
ほら、僕が悪いから。そう言って微笑む沙藤は、心の底から思い込んでいる様子だ。
門限を破る原因になったのは、靴を隠されたからだ。もし、靴探しに諦めていたら。靴が隠されていなければ。
「何も悪くねえだろ、お前は。靴が隠されてなけりゃ、門限に間に合ったんだろ……」
「おい、青峰!」
「この教室に居んだろ!!沙藤の靴を隠した奴!!」
理不尽に堪えきれなくなった青峰は、席を立ち咆哮した。周りに居た生徒は、びくりと肩を揺らした。
「おい、青峰、」
「るせえ!俺はムカついてんだよ…!」
「青峰くん」
「ああ!?」
苛立った青峰の名を呼んだのは天野だった。彼は少し背伸びをして、宥めるように頭を撫でた。
「青峰くんが怒ることないよ。靴しか隠せないビビりな奴なんかに、無駄な時間や労力を使っちゃダメだよ?」
ね?
天野は瞳の奥底に怒りをちらつかせながら、にこにこ微笑んだ。青峰はそれに気圧されて舌打ちをして席に着いた。
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