4 天野沙藤という人物を避け始めたのは、ちょうどこの時期だった。
彼がいじめられるのも、ちょうどこの時期からだった。
彼がこちらに転校してきて、1週間くらい経った部活帰りのことだった。
偶然、青峰と一緒に下駄箱に向かっていた。そこに、帰宅部である天野がロッカーを開けていたのだ。
「何してんだよ」
青峰が怪訝そうに尋ねた。当たり前だ。他人のロッカーを開けているのだから。
「探しているんだ」
「探し物か?」
「うん。僕の靴が無いんだ」
青峰が困惑した瞳をこちらに向けた。俺は小さく嘆息した。どうしてこう面倒なものに捕まってしまうのだろうか。おは朝占いの力も借りているというのに。
すると、青峰がふいにごそごそと自分のロッカーをあさり始めた。
「えーっと、誰だっけ」
「天野沙藤」
「あー沙藤、これやるよ。ちょっときたねえけど」
「なっ、青峰…!?」
なんと、青峰が自分の靴を渡したのだ。言動は粗野だが、根は良い彼のことだから天野に靴を差し出したのだろう。
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。それにサイズが大きいし」
「あーそうだな。つーか大丈夫って、靴が無きゃ帰れねえだろ」
「もし見つからなかったら、シューズもあるし」
ね?と天野が微笑むと、青峰は呻き声を上げながら自分の頭を掻いた。嫌な予感がする。
「おい緑間」
「……探すのか」
「え?でも…」
「俺がいいつってんだからいいんだよ。どういう靴だ?」
俺は彼らに気づかれぬよう小さく嘆息した。
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