3「とにかく、雨に濡れたら風邪をひく。さっさと帰るぞ」
そう言うと、天野は一瞬瞠目し、腹を抱えて笑い始めた。俺は訳が分からず、苛立ちを隠せずに拗ねたような声色でつい「何がおかしい」と言ってしまった。
「ふふっ、緑間くんって意外と優しいね」
「…だからなんなのだよ」
「気難しそうだったからさ」
「お前の方こそ、よく分からないのだよ」
するとまた、天野は目を丸くして、今度はニコリと微笑んだ。
「分かってもらったら、困るから。いいんだ、それで」
俺がよく分からず眉間に皺を寄せると、彼はくるりと振り返って階段を降りていく。
「……わけが分からん」
ぽつりと呟いた言葉が、拗ねているような声色になってしまった。それに反応したのか、天野が振り返った。
「…ねえ、おとぎ話の終わりってどんなのか知ってる?」
「終わり?」
「うん。正確には終わり方かな」
降りていった階段を天野はまた上っていき、俺のところに上がる。そして、こちらを見て微笑むのだ。
「『めでたし、めでたし』」
「は…?」
「つまり、おとぎ話の終わり方は全てこの『めでたし』で終結されているんだ。悪い事をした人は、正義によって成敗される。僕は、この人生を『めでたし、めでたし』でくくりたいんだ」
一気に捲し立てるように喋った天野は、息を整えるように深呼吸を繰り返した。
つまり、こいつが言いたいことは、己の人生を良い結果で終わらせたいのだ。
「お前なら出来るだろう」
頭が花畑のお前なら、な。
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