2 俺は学級委員長という肩書きだけで、昼休み、天野に学校を案内する役目を負わされてしまった。担任からの頼み事なので仕方なく引き受けた。
「今ここにいる棟は教室棟なのだよ。下から3年、2年、1年という順になっている」
「…………」
「……次に行くぞ」
無言のまま次の棟へ渡る。
そういえば、この男が喋っているところをあまり見たことがない。
いつも静かに薄く顔に笑みを貼り付けているだけだ。質問に対しては、軽く頷いたり、首を横に振っていたりしていた。
「ここは管理棟。職員室や事務室があるのだよ」
「…………」
「……どこか行きたいところはあるか」
「……屋上」
「屋上?」
「屋上、連れてって」
にこりと笑う天野に、何故か俺は否応なしに頷いてしまった。
屋上に繋がる扉を開けると、雨がタライをひっくり返したように降っていた。
引き返そうとしたが、天野がふらふら外に出ようとしたところを目撃し、慌てて腕を掴んだ。
「なに、やってるのだよ!」
「そっちこそ。どうしたの」
「こんな土砂降りの中で外に出る馬鹿がいるか!!」
「ここにいるよ」
自身を指す天野に俺はため息を吐いた。面倒なものに引っかかってしまった。
確かに今日は頼まれ事を引き受けてはいけないと、おは朝が言っていたではないか。
迂闊(うかつ)な自分に舌打ちした。
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