梅雨前線とともに 天野沙藤。彼が転校してきたのは、雨が降り憂鬱にさせられる6月だった。
近くの席に座っていた青峰は「野郎かよ……つまんねえな」と言って机に顔を伏せた。興味がないのは青峰と俺ぐらいだった。
色は蒼白く、今にも泣きそうなくらい顔が薄い。髪は豊かな黒髪で、蒼白い頬を際立たせている。
「天野、沙藤です。よろしくお願いします」
その時、天野は帝光の制服を身に着けていなかった。白いカッターシャツに、黒いスラックスというごく普通の一般的な制服だった。
「席は……緑間の前に。後ろから二番目だ」
担任の教師が指を指す。俺はなんとなく、彼を見ていた。近づいてくる顔に、綺麗だと思った。
「緑間くん、よろしく」
「ああ」
彼はにこりと笑ったつもりであろう。しかし、キュッと口の端が上がってはいるが、目は冷たく暗澹(あんたん)としていた。
ショートホームルームが終わると、クラスメート達は興味津々に彼を取り囲んだ。俺はあまりの煩さに、席を立った。
「緑間」
「ああ、赤司か。どうしたのだよ、こちらのクラスに来て」
「今日の練習メニューを監督から預かってきた」
「なるほど」
赤司はちらりと騒々しい教室を一瞥し、こちらに向き直った。
「新しい転校生はどうだ?」
「あまり触れない方がいいな」
「なるほどな」
赤司は薄く笑うと、片手を挙げ「じゃ」と自分のクラスへ帰っていった。
俺もそれに倣う様、教室へ足を向けた。それを天野が見ていると知らずに。
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