その夜、海は月と

水に触れていたら、辛いことも悲しいことも、すべて忘れてしまう。
このまま、ずっと漂いたい。海まで流されて、泡になって消えてしまいたい。


「よぉ」

「また来たの、凛」

「ここが一番好きなんだよ。あと、皐月が居るしな」

「ふーん」


僕が居るから、凛はここに来る。……どうして顔が熱くなるんだろう。
目敏い彼は僕の赤い顔を見て、ニヤリと笑った。


「なんだよ、照れてんの?」

「……知らない」

「はは、拗ねんなよ」

「別に拗ねてないし…」


人にからかわれるのは嫌だ。僕はその場から逃げるために、ぶくぶくと水の中に沈んだ。
後を追うように、凛も潜水してきた。そして、僕の手を取り指を絡めてきた。
離そうとしても、ぎゅっと痛いくらい力をこめて離してくれない。

なんだ、この馬鹿力は。凛はまたニヤリと笑って、掴んだ手で僕を引き寄せて、優しく抱擁した。
赤紫色の髪は、ふわふわと水に漂って、水の蒼とのコントラストが奇麗だ。


海月の僕を、鮫である彼は捕食せず、僕の毒に恐れることもなく、ただ抱き締めた。
そのことに、目の奥がじんと熱くなった。あったかくて、優しい。


「っは!あー…久しぶりに潜水したから目が染みる……」

「あはは、凛の目がちょっと赤い」

「うっさい。なんか、お前も赤いよ、目」

「……これは、塩素のせいだ」


水に触れていたら、辛いことも、悲しいことも、すべて忘れてしまう。
このまま、ずっと漂いたい。彼の傍で、ずっと。

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