開かれるドア
皐月君が帰った後、僕達はいつものように練習をして帰路に就いた。
電車を待っている間、手持ちぶさたになった。普段はあまりこの沈黙を気にしないのに、今日に限って居心地が悪い。
「…渚君」
「んー?なに、怜ちゃん」
「僕、皐月君のお母さんと会いました」
「昨日の話?」
「はい。……それで、彼と似ているところがあるなと思ったんです」
僕がそう明かすと、渚君はこちらを見上げて「だよね」と笑った。
冷たくひんやりとした眼なのに、奥底に何か熱いものが眠っている。否、押さえ付けて苦しそうだ。
彼の母親も何かを封じ込めているのか、苦しそうで僕に声をかけてきた。
「皐月君の動画を見せて頂いた後…お母さんが泣いていたんです」
「うわー怜ちゃん、皐月ちゃんのお母さん泣かせちゃったんだー年上キラーこわあい」
「ちっ、違います!!その…言ってたんですよ」
『この子には辛いことばかりさせてきた』と。涙を拭いながら呟いていた。
きっと彼女が原因なのだろう。皐月君が水泳をしないと頑なに断ること。
「それさ、皐月ちゃんに言ったら泣いちゃうかもね」
「ええ?あの人が泣きますかね……血も涙も無さそうなひとなのに」
「ちっちっちー甘いよ怜ちゃん。皐月ちゃん、結構涙腺弱そうだよ。前に動物系のドキュメンタリーを見てたら泣いてたもん」
「動物には弱いんですね……」
「ちなみに犬と人間の話」
ものすごくどうでもいいですね、それは。
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