水玉模様の母喰鳥
「海は子ども二人じゃ危ないからランニングしようぜ」
「直射日光は死ぬ…」
「お前は干からびそうなクラゲか!」
ぎゃんぎゃん凛に言われて、仕方なく緑が豊かな公園に来た。水の中も静かだけど、木の中もしんとしている。
僕の反応に気づいた凛がいたずらっ子のように笑った。笑うと幼くなるよな、凛って。
「気に入ったか」
「意外と気持ちいい」
「だろー?俺も好きなんだ、ここ」
「……まるで、あそこと同じだ」
「あそこ…?」
凛の復唱した言葉にハッと気づき、慌てて何でもないと訂正した。キャップを目深にかぶった彼は、じっと僕を見た。
「何でもなくないだろ」
「本当に何もない。早く走ろう」
「皐月は、なんでここにいるんだよ」
「っ……!」
「俺はさ、いつか親父の夢を叶えたいんだ。だから、こっちに留学までして来た。でも……っ」
凛は悔しそうに下唇を噛んで顔を伏せた。ぎりぎり握りしめられた拳が震えている。僕は、それをそっと握りしめた。
弾かれるように凛の顔が上がった。いつもの勝ち気な眼は無く、迷子になってすがるような眼だった。
「……僕は、凛みたいにすごい夢を持ってない。ただクラゲみたいに、流されて漂うだけなんだ」
優しく握りしめると、凛の力みすぎた力が和らいでいった。よかった。
「たぶんだけど、ナナセって奴に敵わなかったんだろ」
「決めつけんじゃ、」
「いいな、凛は。好敵手がいるってことだろ、それって」
「そう、だけど」
「……よし、走ろうぜ凛ちゃん。先にリタイアした奴はアイス奢りなー!」
「あっ!ちょっと待て!!」
ムカつく。凛をこんな顔にさせるナナセハルカに苛つく。そして僕は……ナナセになれないことにも。
きっと今までもそうだったように、これからもなれないのだろう。胸の苦しさに戸惑いながら、木の合間を駆け抜けた。
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