冷ややかにホット
「あ!!皐月ちゃんが怜ちゃんと泳いでる!」
いつの間にか渚達も来たらしく、いつものように水着を着ていた。真琴先輩は怜の泳ぎを見てとても喜んでいた。
「皐月君……君の泳ぎ、あの時と同じです」
そう言って笑う怜はとても楽しそうで嬉しそうだった。それがなんだかこそばゆくて、僕は首を傾げた。
「あの時って?」
「あの小学生の大会の動画です。皐月君が最後らへんにはしゃぎすぎて、滑って転けちゃってましたけど」
「ああ、あれか……ていうか遙先輩、そこは笑ってもいいんですよ。そんな大会の動画なんて…ネットにあったの?」
「……いえ、皐月君のお母さんから」
「母さん…?」
あの人、大会に来てたのか。初めて知った事実に固まる僕を見て、怜は「知らなかったんですか?」とちょっと焦り顔。
うん、まあ、ずっと知らなかったかな。僕よりも分かりやすい数字が好きな人だったから。
「てか、いつの間に怜は僕の母さんと仲良くなったんだよ」
「うーん…本屋ですね。水関連の本でうろうろしていたら、突然声をかけてきた方がいて……」
「それが僕の母さん!?あり得ない…」
「同じ学校に入ってる息子がいて、水泳部に入部したと楽しげに話してもらいました」
「…皐月、今日はもう帰れ」
ずっと黙っていた遙が、あのひんやりとした青い瞳でこちらを見つめてきた。
なんで、と口を開く前に怜がかぶせてきた。
「そうですね。皐月君は帰った方がいいです。真琴先輩達にもちゃんと言っておくので」
「なっ、なんで…!意味わかんないし……」
「お前、お母さんと仲が悪いんだろ」
「……誰から聞いたんですか」
「渚」
「ご、ごめんね…?」
「…頭ぐりぐりで許す」
きゃあきゃあ叫んで逃げる渚を捕まえて、ふわふわした蜂蜜色の頭をぐりぐりと拳で制裁。
渚にも言っていないけど、この前の泊まりで分かったんだろう。コイツ、勘はいいからなあ。
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