お手をどうぞレディ

水着は僕たちと同じデザインにして、ゴーグルは度が入ったものに変えた。全て準備が整い、怜は意気揚々と飛び込み台に立つ。

固唾を飲んでその時を待つ一同――

――そして、怜が着水した。


「……溺れてる」

「れ、怜ちゃぁああん!!!」


結果的に、怜は泳げなかったわけで。プールサイドで落ち込むように体育座りをしてしまった。


「どうしよう皐月ちゃ〜ん…」

「どうするって……。カナヅチから泳げるようになるって、何かきっかけがあれば…いいんだけど」

「きっかけ、か…」


ちらりと怜の方に視線を遣ると、もう一人体育座りをしている奴が増えていた。

二人ともひらひら飛ぶモンキチョウを、ジッと凝視している。……ダメだ、笑いそう。




「皐月君、少しだけ時間いいですか」

「え?いいけど…」


整理運動をして着替えようとしたら、怜に止められた。鍵を最後に施錠する約束をして、僕達ふたりだけ残った。


「たしか、まだ泳いでないのがバッタなんでしょ?それに賭けたいわけだ」

「そうです!もう時間は無いし、皐月君は幸運にバッタの選手でしたので…」

「……いいよ、怜。じゃあ早速だけどやってみようか」


まずは基本から教えていくけど……あれ、怜ってば泳げてるよ…?

彼自身も驚いているのか、水をかき分ける力が強い。水泳を楽しんでいる。それが何よりも嬉しくて、少し泣きそうになった。

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