微睡むシープ

三度目に訪れた遙の家はしんとしていて、まるで水の中だと思った。真琴先輩の背中…きもちいい。

すりすりと頬擦りしていたら、真琴先輩がくつくつ笑っていた。猫みたいだって。


「真琴、笑っていないで早く上がれ」

「はいはい。皐月、靴脱がすね」

「いや…自分でできます」

「いいの、いいの。俺、こういうのは慣れてるから」


真琴先輩のにじみ出る優しさに甘えて、下ろしてもらい靴を脱がしてもらった。ちょっと恥ずかしいな。

遙はそれを見て「氷、準備してくる」と言って、奥に入っていった。


「皐月、気分は悪くない?吐き気とかする?」

「ん……大丈夫です」

「そっか、よかった。夜になったら熱が上がり始めるから…どうしよう、俺も残った方がいいかな」

「いい、真琴は帰れ。俺が看病する」

「は、ハルが看病……?!」


ちょっと真琴先輩、遙の発言にめちゃくちゃ驚かないでください。心配になってくるじゃないか。

遙はジト目になって真琴先輩に「何か悪いか」と牽制している。何も悪くないから、とりあえず横になりたいな。


「いや、悪いって意味じゃないけど……どうした、皐月?」

「はやく、寝たい…です」

「っ! 真琴、そういうわけだからな」

「……もう、分かったから。何かあったらすぐに電話かメールしてね?」

「分かった」


寄りかかっていた真琴先輩の腕が、するりと抜けていく。代わりに遙の少し筋肉質な腕が、僕の脇腹に差し込まれた。


「じゃあね、ハル、皐月」

「ありがとう…ございます」

「いいえ、お大事に。おやすみ」

「おやすみ」


引き戸がガラガラと閉められていく。遙はそれを見届けたあと、僕の方をちらりと見て「行くぞ」と言った。

……うーん、真琴先輩が心配する理由がうっすらとわかってしまった。


「ここで寝ろ」

「布団…」

「ベッドはないから。氷、持ってくるから寝てろ」

「はい……ありがとうございます」

「………………」


遙はフイと横に顔を反らして、部屋から出てしまった。もしかして照れ隠し、かな?

とりあえず、早く布団に入って寝たい。そろそろと白い海に入る。遙の匂いが、して……胸がつっかえる。


「…かえりたい」


僕の小さな言葉は、真っ白な波によって消えた。

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