太陽のスマイル
ぱちり、目が覚めたら真っ白な天井が視界に入ってきた。あれ、どこだここ。
身体を起こそうとするけど、なかなか力が入らない。水の中にいるみたいで、浮遊感に包まれている。
誰かの足音がぱたぱたと近づいてきた。あ、渚だ。ふわふわの甘い黄色の髪を揺らして、眉を八の字にしている。
「皐月ちゃんっ、起きたんだね……よかった〜。死んじゃったと思ったよ」
「勝手に殺さないで。ふえっ、くしゅん!」
「……僕、ずっと居たのに気づけなくてごめんね」
「気にすることないよ。ぜんぶ僕のせいだし」
あー鼻水とくしゃみが辛い。ティッシュをスラックスのポケットから出して鼻水をかむ。うん、まあまあスッキリした。
「皐月ちゃん、朝に倒れてから今まで起きなかったんだよ」
「ほんと…?って、今何時?」
「夕方の6時だよ。怜ちゃんが入ってくれたから、迎えに来たんだ」
「竜ヶ崎、入ったんだね。…迷惑、かけちゃったな」
「そんなこと全然ないよ!むしろどんどん頼ってね」
にこにこ笑う渚は、ただそう純粋に言ってるだけだ。裏表のない優しさが風邪で弱ってる僕の心に染みる。
こういうのは、久しぶりだなあ。渚が「マコちゃんとハルちゃんも待ってるからね」と楽しげに言うから、つられて少し笑ってしまった。
「皐月ちゃん!」
「な、なに?」
「その笑顔、むやみやたらに見せちゃだめだからね!」
「う、うん?」
理解不能なことを言う渚に支えてもらいながら、二人が待つ下駄箱に向かった。
「おはよ、皐月。調子はどう?」
真琴先輩の大きな手が僕の額に当たる。いつもは熱いけど、いまは冷たくて気持ちいい。
「うわ、すごい熱……!やっぱり家の人に連絡して、」
「やめてください!」
「あ…ごめんな」
「いえ……こっちこそ、すみません。自力で帰れますから…大丈夫です」
渚に支えてもらっていた身体を動かすが、足元がふらふらと覚束ない。ダメだ、これじゃ帰ることができない。
「わあああ!皐月ちゃん危ないよ!」
「皐月、真琴におんぶしてもらえ」
「でも……」
「いいよ、気にしないで。ほら」
しゃがんだ真琴先輩の大きな背中に、ゆっくりと身体を預ける。お父さんの背中って、こういう感じなのかな。よく分からないけど。
「今日は皐月ん家じゃなくて、ハルの家に泊めてもらおっか」
「いいんですか……そんな迷惑をかけて」
心配そうに呟いたら、真琴先輩は「いいんだよ」と優しく言ってくれた。…渚の言う通り、かもしれない。
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