眩むスクリーン
「おはよ、はづ……ふえっくしゅん!」
合同練習があった翌日、僕は風邪をひいていた。アイに勝った、という事実がふわふわと実感のないまま浮かんでいる。
椅子に座っている僕の側に立っていた葉月は、大げさに身を後ろへ反らした。
「おはよ!わーお、皐月ちゃんってば豪快なくしゃみをするね〜」
「うるさい……っくしゅん。葉月は竜ヶ崎が入ると思う?」
僕は風邪を引いてしまったようで、昨日からくしゃみと鼻水が止まらない。周りに被害が出ないようにマスクを着用した。
……息苦しい。
「思うよ!今日だって一緒に走ってきたもんね」
走ってきたから良い方向に転がるとは言えないけど、接触が高ければ高いほど好意をもつらしいし。
そんな心理的な本で見たことがあったような。ずるずると鼻水をかむ僕に、葉月は頭を撫でてきた。え、なんすか急に。
「風邪菌、風邪菌、飛んでいけー!」
「わーありがとう渚ー」
「……今の、もっかい言って!」
「ありがとう…?」
「そのつぎ!」
なんだどうした葉月。目を輝かせて掴みかかってくる様子に、若干びびりながら言った。
「渚…?」
「皐月ちゃん……やっっと名前で呼んでくれた!!」
「もしかして……そんなに気にしてた?」
「もちろんだよ!だってハルちゃんやマコちゃん、リンちゃんは名前呼びなのに……僕と怜ちゃんは名字だったもん」
さびしそうに眉を下げる渚がとても可愛く見えた。あー顔が熱い、身体が熱い。
そういえば渚とか景色とかが、ぐにゃぐにゃに曲がってるんだけど。机に突いたと思った肘が、空を切って落ちる。
あれ……なんか、渚、なきそ……う。
意識がぷつりと切れた。
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