月と海が接する時

僕は海月だった。ずっとぼんやり、ふわふわ浮かびながら過ごしてた。
でも、それは鮫――凛に出逢うまでだ。彼と出逢ってから、僕の水の中は生き生きしてきた。


「あんた、タイムいくつ?」


ぼんやりプールサイドに座っていたら、急に髪の色が赤紫の少年に話しかけられた。
最初は生意気そうな奴だなーと思ってた。いきなり初対面の僕に、馴れ馴れしく話しかけてきたのだ。
ないと答えれば、目を丸くして、「は?ない?」と繰り返した。


「僕、泳ぐのは嫌いなんだ。ずっと漂っている方が好き」

「つまんねえの。ここのスイミングクラブは、この州一って聞いたぞ」

「そんなの単なる噂に過ぎないじゃない」

「ふうん……。あと、めちゃくちゃ速い選手がいるって聞いたけど」


僕の足が思わず跳ねてしまい、ぱしゃりと水が音を鳴らす。ちくしょう、不覚だ。
僕の反応を見て、赤紫色の髪をした少年は満足そうに笑った。


「やっぱり、あんたが海乃皐月だな」

「……どこで知った」

「どこって、日本じゃ有名なんだぜ?あんたのこと。俺が見たのは雑誌なんだけどな」


また母親か。うんざりする。あのひと、息子の僕を使って、自分の知名度を高めたいだけなんだろ。
現に、こうやって水泳留学させて、スイミングクラブに加入させているあたり。


「で、あんたの種目は?」

「……知ってるんでしょ、どうせ」

「おー、すげえエスパーだ」

「…………」


わざとらしい仕草を睨むと、少年は苦笑しつつ「ごめん、ごめん」と謝ってきた。反省の色が見えない。


「君の名前は?」

「俺の名前は、松岡凛。よろしく」

「……よろしくしない」

「つれねえなァ」


けらけら笑う凛に、僕は若干ムカついていた。

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