海原に一人立つ月
それからも凛は僕と勝負し続けた。何かに追いかけられるように、必死で戦いつづけたんだ。
でも凛の努力は虚しく、大会でもいい成績を残せないままだった。
対して僕はフリーやバッタで、まあまあいい成績を修めていた。母親に何を言われるか、そのプレッシャーがあったから。
「皐月、お前はさ…」
「うん」
「……いやなんでもねえ」
「何それ。気になるんだけど」
少しずつ凛は変わっていった。昔と比べて笑わなくなった。思い詰めるような表情で、どこか遠くを見ていた。
山田先生もそんな凛の様子を心配していた。あんなに明るかったのに、と。
「もう凛ちゃんには困るわ。皐月のモチベーションが下がって、このスイミングクラブの存続が危うくなるじゃない」
「……先生は、凛を元に戻せるって…思いますか」
「はあ…?最近、むっつりしてると思ったらそんなこと、」
「そんなことじゃない!凛を…凛を、」
「思わないわ。きっと彼に近い人じゃなきゃ、無理」
「…………そう、ですか」
あの日出会った凛は太陽みたいに輝いていて、僕には眩しすぎた。でも、今は違う。
太陽の光が無くなった凛は、僕みたいな冷たい月の光を照らすようになった。
ぎらぎら燃えることは変わらないけども、そうなってしまうことが嫌だった。
「まあ、時が解決してくれることもあるし、あんたは次の大会に集中しなさい。タイム、悪くなるよ」
「は、い……」
とぼとぼ歩く僕の背後で、山田先生は心配そうなため息を吐いた。
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