水母に近づく鮫は

凛は僕と泳ぎながら、何か不明瞭な想いに囚われていた。今まで経験してこなかった心の動きに、戸惑っていた。
僕が山田先生と話していると無性に腹が立ち、一緒にいると落ち着かない。
前はこんなことが無かったのに。タイムもスピードも落ちて、焦れる想いは募るばかりだ。


「凛、ちょっといい?」


不安に揺れる僕の目を見て、久しぶりに皐月の声を聞いたと凛は思った。
凛が連れて来られたのは、シャワー室だった。奥の隅に僕が凛の手を引いていく。


「な、なんだよこんなとこで……皐月?」

「単刀直入に聞く、けど…最近タイムが落ちた原因って、何?」

「っ!! な、んだよ…それ」

「その、僕と勝負してから……凛のスピードが遅い気がするんだ」


原因?そんなのわかっていたら、とっくに消化してタイムも伸びていくはずだ。でも、分からない。
焦る気持ちが衝動になって、凛は僕を壁に押し付けた。初めて見る凛の顔に、僕は身体の強張りを感じた。


「うるせえ……!お前は…お前はただ、俺と泳げばいいんだよ!そうすれば……きっと、きっと速くなれるんだよ…!!」

「り、ん……」

「なあ、お前は俺のために泳いでくれるよな…?」

「……うん」


凛の必死な表情に、僕はうなずくしか無かった。そしたらまた、凛は同じように笑ってくれると思った。

しかし凛は僕の返事を聞いて、逃げるように視線を反らして「ごめん」と謝った。
凛の赤い瞳はどこか遠くを見つめていた。例えばナナセハルカ、とか。

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