海に月は恋をする
凛が勝負を仕掛けてきた頃から、僕はある感情に気づき始めた。本来ならば女性である山田先生に持つような、感情。
戸惑いながらも僕は徐々に受け入れた。でも、そのせいで凛を直視できなくなってしまった。
凛から……離れるようになった。
「なあにー皐月ちゃんってば、また凛ちゃんとケンカしちゃったのかしら〜?」
「違います」
「じゃあなに?先生に教えなさいよ〜ほれほれ」
「ウザい……」
僕がじとりと睨むのを何も思っていないのか、山田先生は耳元で話す。
ちらりと凛の方を見ながら、早く泳ぎたいと思いつつ。
「……ねえ、そういやさー凛のタイムが落ちてるのよ」
「落ちてる?」
「うん。あと皐月の方を、じーって見てもどかしそうに泳いでた。あんた何かした?」
「……知りませんよ、そんなの。僕は凛と出会ってまだ一年も経っていないのに」
凛と顔を合わせたのは、ちょうど日本が正月を迎え終えた頃だ。
こっちのオーストラリアでは夏真っ盛りだったな。
「そんなの関係ないわよ。時間よりも接した密度が高ければ、お互いになんとなーく分かるの」
「……なんとなくじゃ、ダメですよ」
「そお?私よりあんたが聞いたら、答えてくれそうなのに〜」
タイムが落ちた原因を聞くだなんて、凛みたいに器用な奴ができる技だ。
ナナセの代わりである僕のような人間に、凛が話してくれるわけがない。
「皐月ー!こっち来い!」
「ご指名のようね、皐月ちゃん」
「……考えときます、聞けるか分からないけど」
「! ん、任せた」
滑らないようにプールサイドを足早に移動する。凛、お前は……ナナセしか見えないのか…?
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