焦るユーアンドミー

最初は真琴先輩から。豪快なクロールは派手に水飛沫を上げていく。

次は葉月。小柄ながらも、進むスピードは速い。たしかブレだったかな、専門は。


「次は……あれ、皐月ちゃん泳ぐの!?」

「売られた喧嘩を買わないわけにはいかないだろ」

「へ、へえ…?」


ちなみにゴーグルと水泳キャップは鮫柄から借りた。ゴーグルが外れないように念入りに押し込む。

アイと泳ぐなんて、久しぶりだ。小5以来だから、5年ぶりか。飛び込み台に立って、久しぶりに見る景色は変わらない。

この気持ちも変わらない……僕はただ、アイと泳げればよかった。凛と、泳げればよかった。

ホイッスルの音で、一斉に飛び込む。水をかき分けてアイツを振りきらなければ。


「皐月ちゃんって、クラゲみたいにか弱そうだけど、すごく毒があるよね」

「うん……でも、何か無理をしているような気がする」


速く、もっと速くならなきゃアイの気配を消せない。もっと、もっと……!


「っは!!」

「ぷはっ……!」

「海乃君がコンマ一秒速かった」

「…そう、ですか」


たぶん、この合同練習を本気でしてる奴は、僕とアイしかいないだろう。アイの方を見ると、まだプールから上がっていなかった。アイのいるレーンに行き、上から手を差し伸べる。


「……ん」

「…あり、がと海乃」

「お前、速くなったな」

「……絶対海乃に追い付いてみせるから」

「……………………」


すれ違いざまにぼそりと言われた言葉が一日中頭から離れなかった。

……やべえ、アイが速くなってて焦る。

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