諦念にヘルプ
「皐月ちゃん!やっぱりマネージャーじゃなくて、部員にならない!?」
「……マネージャーって部員じゃないの?」
「あ、間違えた!そうじゃなくて、リレーに出ない?って」
葉月がぐいぐいシャツの袖を引っ張る。やめろって、伸びちゃうだろ。
リレー、か。僕がバッタでアイツがフリーだったな。懐かしくも苦い思い出が脳裏に映し出される。
それを振り払うように、葉月が俺の両腕を掴んで前後に身体を揺らしてきた。
「おねがい〜皐月ちゃん、ハルちゃんのためだと思ってさ!」
「……遙先輩のためなら絶対泳がないから」
「ええっ!?皐月ちゃん、反抗期なの…?」
「っ、とにかく僕はもう泳がないから!」
葉月がアイツと重なって見えて、怖くなった。逃げるように机に顔を伏せて、夢を見ようとする。
しかし葉月が僕の背中に抱きついてきて寝られない。はあ、面倒なことになってしまった。
「オフシーズンはここで泳ごうと思ったんだけど、部費が出ないんだって〜」
「それは困ったね」
「もう皐月ちゃん!マネージャーなのに辛辣だよぉ……」
「…マネージャーの僕から言わせてもらうと、基礎体力をつけなきゃダメだと思うけど」
「うーでも、ハルちゃんも僕も泳ぎたいんだよー!」
また遙か。ため息を吐いて、上体を起こした。このままにしても葉月に睡眠を妨害されてしまう。
「ところで、もうひとりの選手見つかった?」
「一応目星は付けているんだけど……全っ然振り向いてくれなくて!」
「そっか。じゃ……もし一週間以内に入ってくれなかったら、僕が入る」
「え……!!皐月ちゃんほんとに!?」
あんまり確認されるとやる気無くすよ、と睨みながら言うと葉月は目を輝かせながら「ありがとー!皐月ちゃんだいすき!」とどこからか出したイワトビちゃんを顔に押し付けてきた。
いや、いらないから。
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