必要なかったウォーリー
受付の方に回り、水泳部が練習している場所へ案内してもらった。そこは廊下みたいなところで、ガラス張りの向こうには、多くの部員達がプールで練習していた。
……わあ、あそこってこの前僕達が侵入したところだ。
「流石強豪校……!みんな鍛え上げられた身体を持ってる!」
「へえ……」
「皐月君も絞らなきゃねっ」
「えっちょっと待って。僕はマネージャー、」
「あれ、どうしたの君たち」
関係者らしき人に話しかけられた。髪がちょっと赤っぽくて怖そう。……アイツは、いない様だ。
「すみません、松岡凛っていう水泳部員知りませんか?」
「松岡…?おい、松岡って奴知ってるか?」
「いや、知らねえな」
「すまないが、うちの部員にはそういう奴はいない」
まさかの展開に僕と江ちゃんは顔を見合わせた。どうして、凛が。予想外の事実に戸惑う僕達を見て、その人は「ちょっと待って」とストップを掛けた。
「君、きゃわいいね…!」
「ありがとうございます」
「それに、君は……海乃皐月君じゃないか?」
「っ!ど、して名前を……」
「いやぁ、一時期すごく人気じゃなかったか?天才小学生、海乃君って言えば。俺も君くらいの時――」
天才小学生、か。その肩書きを初めて知ったのか、江ちゃんは大きな目を見開いて僕を見た。どうしよう、マネージャーから下ろされそうです。
冷や汗をかいていた僕を、幼なじみのアイツが、偶然見ていたなんて知る由もなかった。
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