魅惑的なネゴシエーション
七瀬先輩と水鉄砲の飛距離を競いあっていたら、インターホンが来客を知らせた。七瀬先輩は出ようとせず、ぶくぶくと水の中に沈んでしまった。
「はーるーかーさん、出なくていいんですかー?」
「…………………」
「僕は出ませんからね」
「真琴なら、入ってくるはずだ」
そりゃそうか、幼なじみだしね。納得した僕は、また水中に潜る七瀬先輩を追いかけて沈んだ。
早く、プールに入りたい。
「遙ー?また風呂に……って皐月君!?」
「ぷはっ、たち…じゃなかった、真琴先輩。こんにちは」
「真琴だろ」
「でも流石に真琴先輩を呼び捨てにするのは……ちょっと」
「な、なんで皐月君まで水風呂に入ってるんだよハル!」
なんか浮気現場に遭遇した彼女みたいな感じだな、真琴先輩。そんな先輩に対して、遙はしれっとしている。
「もーマコちゃん、本題言わなきゃ!」
「う、そうだった…。ハル、皐月君、鮫柄に行かない?」
鮫柄?鮫柄ってあの水泳部が強豪校で有名な…全寮制の高校か。あそこも考えていたけど、アイツがいたから岩鳶に来たんだよね。
「嫌だ」
「行こうよー!鮫柄学園!」
「なんで鮫柄に?」
「凛に会いに行くんだ」
「昨日会っただろ」
……あんな一方的な再会でも、カウントするんだな。借りたタオルで髪を拭いながら苦笑い。
「…行けば今度こそ泳げるかもって思ったんだけど」
「鮫柄って屋内プールもありますよね」
「ねー。どう、ハル?」
ほんと、真琴先輩って転がし方が上手いな。キラキラ輝く遙の目を見ながら、ため息を一つ吐いた。
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