素直にハロー
葉月から一緒に来ないかと誘われたが、やんわり断った。僕には目的がある。それは、購買で売られる数量限定のパンを買うため。
「「あ」」
伸ばした手が、見たことがあるような赤紫色の髪の女子生徒と当たった。ここはレディファーストだ。譲っておこう。
「どうぞ。僕はこっちを買うので」
「えっ!?いえ、あなたが先に取ったから…どうぞ」
お互いに譲りあっていたら、どこからか知らない人が横からかっさらっていった。その光景を見て、面白くなって笑ってしまった。
そのひとも、僕につられて笑いだした。あ、笑うと誰かに似ている。
誰だろうともやもや考えながら、メロンパンを手に取り購入した。
「松岡だ」
「へ?」
「凛に似てる」
「もしかして…お兄ちゃんを知ってるんですか?」
「うん。ああ、じゃあ妹さんだ」
思い出したぞ。オーストラリアにいる時、凛がちょっと心配していた妹の江ちゃん。少しつり目で凛に似てるなあ。
「ちょっとお話ししたいんですが…」
「いいよ。あと、敬語いらないんじゃない?同い年だし」
「あっ、そっか。ちょっと待ってて」
妹の江ちゃんは素直だな。凛は口じゃなくて、態度で示すから…。よく、待っておけという意味で袖を握られたな。
嫌な思い出だろうと、懐かしむのは変わらないものだな。江ちゃんの後ろ姿を見ながら、そう思った。
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