乾ききったハート

葉月と橘先輩も、その仕草に気づいたらしく、声がハモっていた。キャップの影から現れた顔は、少し不満げだが、紛れもなく凛だった。


「オーストラリアから帰ってきたんだ!」

「でも、どうしてここに…」


困惑気味の橘先輩に、葉月が凛の腕を掴みながらよく分からない説明をし始めた。


「きっとこれって、運命だよ!目に見えない不思議な力が、今夜この時間僕たちをここに、」
「ハル、お前まだコイツらとつるんでいたのか。進歩しねえな」


凛は嘲笑うように、七瀬先輩に視線を遣った。ちらっと僕を見て、また七瀬先輩の方へ戻した。……わかっていた。代わりだってこと。


「何言ってんだ凛…?」

「そういうお前はどうなんだよ。ちょっとは進歩したのか?」

「…ちょうどいい。確かめてみるか。勝負しようぜ」


確かめてみるって、ここ閉鎖したんじゃないんですか。内心そう思いながら、さっさと歩き出す二人を見る。


「ま、待ってよ〜!」


置いてきぼりにならないように走り出した橘先輩と葉月の後ろを見て、ため息を吐いた。


「帰りたい……」




追いついて着いた時には、七瀬先輩と凛は水着姿だった。おいおい、水入ってないだろ。


「チッ…つまんね。そういやお前ら、これ見つけに来たんだろ」

「あっ!トロフィー!」

「もういらねえから、こんなもん」


そう言って、凛はトロフィーを睨み付けて、無造作に捨てた。慌てて葉月と橘先輩が駆け寄るが、それは重力に逆らわないままタイルに落ちた。

服を肩にかけて去って行く凛の後ろ姿を見て、葉月が寂しそうにぽつりと呟いた。


「凛ちゃん……変わっちゃったね」


彼の小さくなっていく背中を見て、僕は何かに突き動かされた。行かなきゃ、追いかけなきゃ。


「すみません、ちょっと先に帰っててください!」

「えっ、ちょっと、皐月君!?」

「またね、葉月!失礼します!」


暗がりにどんどん入っていく背中を追いかける。こんなに走ったの、どれくらい久しぶりだろうか。

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