海猫に笑われる月
『それでいいのかよ』
ムカついたような凛の表情が脳裏から離れない。それでいいのか、よくないって分かっている。
凛の言葉が脳内で反芻される。よくないって分かるのに、何も出来ないまま……僕は大きくなってしまうのか。
そんな現実に打ちのめされながら、スイミングクラブが開くのを待っていた。
「だからって……どうすればいいんだよ」
「皐月ちゃーん!」
「……山田先生、ちゃん付けは止めてください」
「やだやだ、つんけんしちゃって。同じ異国に住まう日本人として仲良くしよー?」
「しません」
「もー、そんなツンデレだから凛ちゃんにフラれちゃうのよー?」
「されてません。てか、告白すらしてません」
山田先生は独身女性で、海猫みたいにきゃんきゃん鳴いてうるさい。あと、胸が大きくて腕に当たってるから、抱きつくのはやめてほしい。
こんな不真面目な先生だけど、このスイミングクラブの経営者だ。あり得ない。
「うるさい…」
「おーおー怖い顔だ!あーそうだった。今日は開けないからね!」
「は!?な、なんで…!」
「ごめんね〜!ちょっと検査しなきゃいけなくてさぁ」
「……そうですか」
ため息を吐いて、Uターンをしようとしたら、凛が立っていた。彼も今しがた聞いたらしく、「マジで?」と山田先生に聞き返していた。
「だからね、たまには海に行きなさーい!しっしっ!」
「せっかく来たのに……。行くぞ、皐月」
「あ、うん」
何気なく振り返ると、山田先生は口パクで「よかったね」と笑っていた。……ウザい。
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