水曜日は母が来る
毎月第三水曜日になると、必死に仕事をする母がこのスイミングスクールにやって来る。だから、僕はこの日が堪らなく憂鬱だ。
「皐月、今日は顔色悪くないか?」
「…そんなことない」
「あるって。上がって休んどけよ」
「やだ。それだけは……したくない」
「……そーかよ」
水に触れていれば、嫌な母の存在とか、同じクラスメートの奴とかを忘れられる。僕は目を閉じて、水の中に潜った。
しばらくして、凛の大声が聞こえてきた。何事だろうかと上がってみれば、母と彼が口論していた。
「それでもてめえ、母親かよ!!」
「何も知らないあんたなんかに、どうこう言われる筋合いは無いわ!」
「凛……何やってんの」
「皐月!貴方、こんな口が悪い子と関わっているの?」
「……凛は、悪い奴じゃないよ。少なくとも母さんよりはね」
凛はびっくりしたように、僕をじっと見つめた。母は顔を真っ赤にしてヒステリックに叫んでいたら、係員のお兄さんが宥めながら外に連れて行った。
よかったと安心していたら、凛がぎゅっと僕の腕を掴んだ。すこし、震えていた。
「よかったのかよ、あんな言って」
「いいよ、別に。ていうか、よく言えたね」
「あれは…ちょっとカッとなって」
「はは、震えてるよ?」
「うるせえ!まだ中学生だから…仕方ないんだよ」
「そうだね……僕たちはまだ中学生だから、仕方ないんだよ」
仕方ないと諦めたことは、もう数えきれないくらいある。仕方ないよと僕が吐き捨てるように言うと、凛はしっかりとした眼差しで僕に言った。
「それで、いいのかよ」
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