黄瀬君に!
私が中学3年の時、付きまとってくる後輩がいた。まるで犬みたいに尻尾を振って、なんか忠犬みたい。
だから私は黄瀬のことを、忠犬キセ公と呼んでいた。もちろん、心の中で。
「黒子センパーイ!」
「……何なの、朝から」
「何って、今日はバレンタインじゃないっスか!だから、ほら」
「どうせ黄瀬のことだから毎年箱単位でもらっているんだろ」
「そんなことないっス!オレ、今年はぜーんぶ断りましたから」
ああ、だから私の嫌がらせがいつにも増して多くなっているのか。なるほど、なるほど。頭が痛くなってきたぞ。
「ちょっと待ってろ」
「えっ、もしかして、黒子先輩……!」
「ほら、ハッピーバレンタイン。これで我慢して。あと女の子からちゃんと貰うんだぞ」
「…く、ろ飴………」
ポンと手のひらに置かれた黒飴をじっと見つめる黄瀬。なんか静かで怖いな。まあ煩いよりはマシか。
そそくさ立ち去ろうとする私の腕を黄瀬が引っ張った。
「ちょっと、制服が伸びるっ、ひゃあ!」
べろんとうなじを舐められた。全身の鳥肌が立った。恐る恐る黄瀬を見ると、明らかに怒ってますよオーラを発していた。「そ、んなに、黒飴が不服だったか」
「……オレ、セツナ先輩が食べたい」
「……はあ?」
「もうなんなんスか!さっきの声!可愛すぎる!」
「ち、近寄るな変態!キモい!」
罵っているにも関わらず、黄瀬はきゃーきゃー言いながら抱きしめてこようとした。だから回し蹴りをした。
「あ、ごめん」
力無く床に這いつくばる黄瀬に一応謝罪。しかし黄瀬は怒るどころか、むしろ喜んでいた。
「べ、べつに…いいんス……セツナ先輩のパンツがゴフッ!」
「謝るんじゃなかった!」
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