時給八百五十円

しんしんと降る雪の中、俺は馬鹿みたいにチラシを配っていた。サンタの着ぐるみを着て。

事の発端は、麻里にクリスマスプレゼントを贈りたいと思ったから。今日はクリスマスイブで、給料が貰える日。


「あー!やっぱり大我だ!」

「っ!?」

「何故火神君と分かるんですか?」

「だってこの動き…大我のシュートのフォームに超そっくり…!」


俺はハラハラしつつ、黒子といる麻里に苛立ちを隠せなかった。黒子は「この人は火神君じゃありません。サンタさんです」と本気か冗談かよく分からない発言をしていた。

黒子と別れた麻里は、近くのベンチで温かいペットボトルを握って座っていた。

アイツ、こんな寒空の下で待っていて寒くねえのかな。今すぐ駆け寄ってマフラーをかけてやりたいが、今はバイト中。




バイトが終わり、給料を受け取った俺は、真っ先にマフラーを購入した。直ぐにつけられるように、タグも切ってもらった。


「麻里!」

「大我!やっぱり大我だ!!サンタさんかっこよかったぞー」

「お前なぁ…!こんな寒い格好で来んなよ」

「いやあ、直ぐに会いたくてさあ。あれ、何そのマフラー」

「……ん、やる」


ぐいぐい麻里に押しつけると、状況を理解したのかにやあっと笑った。うわ、何こいつ怖い。


「なになに、黒子君といたから妬いてんの?ね?ね?」

「……そうだよ!妬いてんだよ!!だから黒子と居るな!!」


ぽかんとアホ面をしている麻里になんだよと言ってみると、ぶわーっと真っ赤になった。


「そ……そんなに率直に言われると…恥ずかしい。あと、黒子君とは…プレゼントを選ぶのに手伝ってもらってたの」

「え、あ、そうなのか」

「でも…嬉しい。ありがとう!えっと、大我に……これ」


にっこり笑う麻里に俺は、だからコイツは憎めないんだよなあと思った。渡された紙袋には、Merry Christmas!!と書かれていた。


Merry Christmas!!

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