漆黒の海に沈む

山の上から見る街の景色は、きらびやかで幻想的。ここをチョイスしちゃう当たり、やっぱりテツヤ君はロマンチストだなあと思った。


「ね、ここスッゴい綺麗だね」

「イルミネーションを見るにはもってこいの穴場スポットらしいです」

「もしかして、わざわざ調べたの?」

「少ししか調べていません。それに、麻里の為なら全然苦じゃありません」

「……本当、テツヤ君ってよくそんな恥ずかしいセリフが言えるね」

「何のことですか?」


全く自覚なしのタラシには困りものだ。相変わらず丁寧語も抜けていないし。でも、そんなテツヤ君も好きな私も私だけど。


「このまま……時間が止まればいいのに」

「そう、ですね…」


私は今日、この生まれ育った東京の地を離れる。父親の転勤の都合で、九州に行くことになったのだ。勿論、一人暮らしをするからと言い張ったけど、女の子なんだからと言って聞き入れてもらえなかった。

12月25日、皮肉なことにクリスマスの日にお別れなんて。私はギュッと拳を握り締め、テツヤ君の方を向く。


「別れよ」

「あなたなら、そう言うと思ってました。ていうか……言い出した張本人が泣くってどうなんですか?」

「うぇっ、だっで!テツヤ君と……別れたくないもん…!」

「……ボクもです」


でも、別れた方がどちらにもいいことだと思う。九州と東京なんて、そんなちょっとやそっとで会える距離じゃない。


「そうだ、駆け落ちしましょう」

「ぷっ、何言ってんの!ひっく、テツヤ君はバスケを、頑張って…!」

「麻里さん…。最後に、キスしてもいいですか?」

「……そういうのってさ、ムードに聞くもんじゃないの?」


そう言うとテツヤ君は「ムードの了承を得たので」と唇を重ねた。ほんの一瞬だったけど、永遠に感じられた。


「さよなら、テツヤ君」

「さよなら、麻里さん」

Merry Christmas!!

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