お菓子ほど甘くない
寝かした生地を、様々な種類の型抜き器で抜いていく。この工程を何度繰り返したことだろうか。
桐皇学園バスケ部は、クリスマスだから部員全員にジンジャークッキーを作って渡そう。という何とも面倒なことを企画した。
ちなみにその立案者は、桃井さつきちゃんである。彼女の料理の才の無さに、皆気づいている(気づいていないのは本人だけ)。
だからこの場には、桜井君とマネージャーである私の二人だけしかいない。そして、ちゃんと衛生面を考えて、マスクと三角巾、エプロンを着用している。
「織田さん大丈夫?ボクがやろうか?」
「う、ううん。桜井君は自分の作業に集中していて」
「よかった。もし、手伝いが必要なら言ってね」
積極的な桜井君に私はどぎまぎしながら、うんと素っ気なく返事した。彼の手さばきは、手慣れたものであった。
生地をサクサクにさせるために、切るように混ぜ、ダマができないように丁寧にしている。
桜井君に上手だねと褒めたら、顔を赤らめながらそんなことないよと謙遜した。そんな彼を撫でまわしたいなと不埒な考えを持ってしまった。
「終わる気が…しないよ……」
「よし、ボクもそっちを手伝うよ」
「本当、仕事が遅くてごめんね…」
「ううん、気にしなくていいよ」
「ごめんね…」
唐突に桜井君が「マスクを取って、目を閉じて口を開けて?」と言ってきた。分かったと声が裏返りながら、言われた通りにする。
「っ!?」
「織田さんに焼きたてクッキーを食べさせてあげたくて……」
「ありがとう。とっても美味しいよ」
桜井君は恥ずかしそうに笑った。期待はずれだったけど、口の中に広がる甘さに、頬を緩ませた。
Merry Christmas!!
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