変わる何か
「終わった……やっと終わった…」
「お疲れ、最初にしてはまあまあ出来てる方だって」
「んー…そっか」
池袋駅前の近くにある公園のベンチにて、俺達は今日あった俺の初めてのナンパ反省会を開いていた。
ガチガチに緊張していたけど、紀田がちょいちょい寒いギャグを入れてくれた(本人曰く、「絶対ウケると思った」ギャグらしい)から、途中からだけど結構解れた。
「本当、紀田が居てくれたおかげで助かった。ありがとな」
「……別に、気にしてねーよ!」
「んだよ、赤くなってー照れてんの?」
「照れてねえって!まあ……これで何となく分かっただろ?」
イヤーカフスを付けた耳をほんのり赤くさせながら紀田は言った。これで修行も終わり、なのか…?
「この修行が終わってもさ、ナンパじゃなくて普通に遊ばない?」
「おう!当たり前だろ」
「ふふっ、約束な」
「ゆーびきりげんまん、嘘ついたら…針千本刺してやる!」
「は!?刺す!?」
「もう指きった」
ニヤリと笑う紀田に一本取られたなと思った。でも、その無邪気な笑顔に何故か俺はよく分からない感情に心を乱された。
……沙樹と同じ時に抱いた、よくありがちな甘酸っぱいやつだと気づいたのは、家に帰ってからだった。
◇◆◇
翌朝、俺は何となく紀田と顔を合わせにくかった。甘酸っぱい何かに、それとなく気づいていたからだ。
「おはよ、結城」
「っ!おお、はよ」
紀田にいつものように肩を軽く叩かれ、びくりと跳ねてしまった。
紀田は気にしてないのか、特に何も言わなかった。昨日見たテレビの話とか、他愛ない話とかをただしていた。
意を決して、俺から紀田に誘ってみた。
「今度さ、池袋で遊ばない?」
「おお?珍しいな」
「なんだよ。そんなに珍しい?」
「結城から俺を誘うことなんてないじゃん」
そう言われればそうだ。俺は「確かに」と苦笑した。何ともないようにしていたが、内心動揺していた。
もしかしたら、二人っきりになれるかもしれない、って。
「帝人と杏里も誘わねえ?」
「あ…ああ、そうだな!」
「よし。楽しみだな」
楽しそうにする紀田とは反対に、俺のテンションは現実を目の当たりにして急激に下がっていった。
当たり前だろ。男が男を好きになるなんてことは、不可能に近いって。