何かの到来
ダラーズの集会があったと噂されたその数日後、結城はクラスの女子と話せるようになっていた。まだ目を合わせることはできないらしいが。
「すげーじゃん結城!」
「ありがとう。これも紀田のおかげだな」
にこりと笑う結城に、俺の心がきゅうと甘い何かに締め付けられた。無性に照れ臭くなって「お前の努力の賜物だよ!」と言い訳をした。
その甘い何かを、なんとなく俺は無視した。
「へえー結城君すごいね」
「園原さんとなら目を合わせられるよ」
「えっ!」
「なんだよ帝人〜?もしかして、」
「違う!!勝手に変な憶測しないでよ、正臣…!」
わりーわりーと帝人に適当に謝っていると、結城がケータイの画面を見て、慌てたように「わり、急用できた!」と言った。
「なんだ〜?ついに結城にも春が来たってのか?」
何気なく放った言葉が、俺の柔らかいところを突いてきた。結城はそんな俺に気づかず、画面から目を離さずポツリと呟いた。
「……春っつーか真冬だな」
苦笑する結城に、俺達はよく分からず首を傾げた。そして結城は別れの挨拶をそこそこに去ってしまった。
「最近の結城君……様子が変ですね」
「杏里、何か知ってんの?」
「いえ、なんとなくですが…」
「……尾行、してみようか」
帝人らしからぬ爆弾発言に、俺は結城が会う人物を知りたくて、迷わず首を縦に振った。