あの後、彼女は睨んだまま何もしゃべらなかった。気まずくなった俺はそそくさとその場を去ったのである。
違うものだらけ
「はー…」
まだまだ新米の俺は教育係の黒子くんと、使い終わった体育館のモップがけをしていた。
「手が止まってますよ」
「うわぁあ!?いつの間に…!」
「ついさっきですが。ところで、ため息をついていましたが、何か悩み事があるんですか?」
「あー…まあ、そんなとこ?」
今日の昼休みにあった出来事を黒子くんに話すと、彼は驚かずにこう言った。
「ああ、それは憂です」
「ゆう?」
「佐原憂、ボク達と同級生です」
「……全然名前が違うじゃん」
そう呟くと黒子くんは「憂はイタい子なんです」と少し悲しそうに言った。
「そういえば……なんで黒子くんはそんなに知ってるの?」
「…家が近いんです。いわゆる、腐れ縁というか」
「へーなるほど」
ふむふむと頷いていると、不意に誰かに肩を掴まれた。あ、この、感じ、は……。嫌な汗が背中につうっと流れるのを感じながら、俺はぎこちなく振り返った。
「きゃ、キャプテン…」
「俺がいないからといって無駄話とはいい根性してるなァ、黄瀬」
赤司キャプテン。みんなこの人には逆らえない絶対的な存在。
「で、でも黒子くんだって…!」
「黒子は真面目にしているだろ」
「んなっ…!」
目にも止まらぬ速さで移動して、モップがけを再開していた。なんだ、意外と俊敏な動きするんだな。
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