「危機一髪、いや黄瀬一髪だったか?」
「青峰君、少し黙ってください」
「そうっスよ。憂ちゃんが寝てるんだから」
「……今更なんだけど、コイツ誰?」
「「フランシス・ディック・リジキュラスっス・です」」
「…………はあ?」
許される日
奇跡的に、俺の類い希なる瞬発力と身体能力で、憂ちゃんの腕を掴むことができた。
彼女は平均的な女子の体重より軽い方だったので、黒子くんにサポートしてもらいながら、やっとこさ引き上げた(ちょうど俺が慌てふためいている時に来た)。
その件の彼女は、『飛ぶ』時に気絶しちゃったらしいけど。
「ほんと、憂ちゃんらしいというか…」
「まあ誰でもいいわ。部活遅れんなよー。よし、テツ、行くぞ」
「え、あ、ちょっと…!」
「了解っス」
「う……んぅ」
青峰っちに返事をしていたら、憂ちゃんが目を醒ましたようだ。
「こ、こは……」
「保健室。屋上で気絶してたんだよ」
意識がはっきりしてきたのか、自分のしでかした重大さに気づいたらしく、顔が真っ赤になった。
「き、黄瀬…!ご…ごめん、なさい……」
「それを言うなら黒子くんにも言わなきゃね」
「……はい」
一気に力が抜けて、ずるずると床に座り込む。ほんっと、よかった…。
「黄瀬、くん」
呼ばれたと思い、顔を上げたら、頬にキスをされた。仕掛けた本人が真っ赤なゆでダコになってどうするんだよ。
「これ、なんすか」
「……あ、ありがとう?」
「ふ、好き、じゃないの?」
「…そうだよ」
恨めしそうに上目遣いされても可愛いだけなのに。そう思いながら、よしよしと頭を撫でる。
「黄瀬…くんは?僕のこと……嫌い?」
「うーん、どうなんスかねえ?」
俺は、屋上のフェンスの向こう側にいる君を、こちらの世界に連れ戻したいくらい好き、かな。
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