黒子side
憂が倒れたその日の帰り道、彼女はいつもより思い詰めた表情をしていた。
三人で帰る暗い夜道。いつもなら、黄瀬君が軽口を叩いたり、憂がボクに色んなことを話した。でも、今日だけは、居心地の悪い沈黙が漂っていた。
もう鳥はいない
「じゃ、俺はこっちなんで」
「バイバイ」
「さよなら、また明日」
「バイバーイ、また明日!」
元気よく手を振る黄瀬君だけれど、彼の表情は何かに悩んでいるようだった。ボクが、原因なのはわかっている。
黄色い頭が見えなくなり、ボクと憂は黙々と家路を進む。もうすぐ、着くという時に、彼女が口を開いた。
「テツヤ」
「はい」
「もう、飛べなくて悩む鳥はいないから。安心してね」
彼女の表情は、暗くてよく分からない。しかし、声色はとても明るかった。
「は?どういう意味、」 「だから、テツヤはもう心配しなくてもいいの。僕、ちゃんと飛べるから」
「飛べる…?」
「うん」
『飛べる』とは、一体何のことだろうか。疑問符をたくさん頭に付けたボクを置いて、憂は「お休みなさい」と挨拶をして家に帰っていった。
「どういう、ことですか…」
疑問を与えた本人が居なくなったのにも関わらず、ボクはその場で立ち尽くしていた。
← / →
|