リコちゃんの元へ急いで駆け寄る。ちなみに私を横抱きした黄瀬君は監督に怒られていた。ざまあ。


「ほんっとあの監督ムカつくわね!」


みんなのドリンクとかタオルとかを用意していたら、リコちゃんのぷりぷり怒った声が聞こえてきた。


「なになに?何か言われたの?」

「ウチとの練習試合、ハーフコートでいいって…!日向君、分かっているわよね?」

「ああ、このまま舐められたまんまじゃいけねえ」


その言葉を聞いたリコちゃんが「じゃ、よろしく!」と日向君の背中をバシッと叩いていた。わあ、痛そう。


「んふふ、なんか面白いことになってきたね!」

「姉さん気持ち悪いです」

「……テツ君なんか黄瀬君にコテンパンナにされちゃえばいいのにぃー」


するとテツ君はじーっと見て、私の頬を指先で掴んだ。いっつもテツ君は私がアホなことを言うとこうするんだよね!

まあ……私のこの言葉がまさかああなるなんて、予想しなかった。


「それではこれから、誠凛高校対海常高校の練習試合を始めます」


さて、海常さんはどう出てくるのかな。ん?ボールを片手に持った審判が戸惑っている様子。もしかして、


「…や、あの…だから始めるんで…誠凛、早く5人整列して下さい」

「あの…います5人」

「……おおぇ!!?」

「わあ、安定の薄さ」


いつものように驚かれていて、やっぱりあの子は影が薄いなあと思った。隣ではリコちゃんが「うわ……」と目を見開き驚いている。


「やっぱり強い?」

「全国クラスだからね…。半端じゃないわ」

「……ふうん。でもテツ君が勝利を取ってくれるって♪」

「ん〜それでもどうなのかしら……」

視線を前に戻すと、先制ボールを海常の4番…つまりエースが取っていた。私は目を逸らしてしまった。


「……キャプテン…。4、番」

「ん?どうかしたの?」

「いや、なんでもない!ごめん、外に出ていい?」

「いいけど…」

「ありがと!ちょっとトイレ行ってくる」


体育館から出てしゃがむ。息が苦しい。まだあの悪夢から解放されていない証拠だ。


「っ、はっ…」


大丈夫、昔のことだもん。無理矢理にでも立ち上がって、テツ君を応援しなきゃ。

テツ君が勝利を取ってくれる




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