【しんちゃん】
緑間真太郎には、幼い頃、2つ違いの兄がいた。しかし、兄は交通事故で死んだ。原因は真太郎が投げたボールを追いかけて、そのまま道路に飛び出してしまったことである。
緑間の兄は生前、真太郎のことを“しんちゃん”と呼んでいた。ちょうど、現在の相方のように。
「そういやさー今日って何か課題出た?」 「特にはないだろう」
――そういえば、この道路で俺のせいで……。 緑間が回想に耽っているその時、頭の中で懐かしい声が聞こえた。
『しんちゃん、前』
「っ!!」 「おい緑間!轢かれるとこだったぞ!」 「あ、ああ…」
赤信号の横断歩道に飛び出していた緑間は、声の主に何となく目星が付いていた。 ――これは、きっと。
その日から、緑間が危なくなると頭の中で『しんちゃん、前』という声が聞こえてきた。 高尾に昔あったこの事件について勇気を出して話してみると、彼は感心したようすで「へえ、真ちゃんのこと守ってくれてるんだ」と言った。 緑間もそう思い、彼は自分を赦して(ゆるして)くれたのだと胸をおろした。
そんなある日、緑間はまたあの声を聞くことになった。
『しんちゃん、前』
今回もまた車に轢かれるところだった。緑間は冷や汗を手に握りながら、ふと、あの言葉に違和感をもった。
――本当に、『しんちゃん、前』なのだろうか。
その時だった。またあの声が聞こえた。だが、今回は違い、よくよく耳をすましてみる。 緑間は気づいてしまった。彼はまだ怨んでいたのだ。自分が死ぬ原因になった緑間に対して。緑間は、ふらふらと何かに誘われるように、再び横断歩道へ歩き出した。 今度は、もう誰も止めない。
『しんちゃん前』 『しんちゃんまえ』 『しんじまえ』
『死んじまえ』
「死んじまえ、真太郎」
―――――――――――――緑間くんのお兄ちゃんは怨んではいません。ただ、自分と同じように死んでくれない緑間くんを怨んでいるのです。嗚呼、ヤンデレサイコー
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