ストーキング・ストーキング1
「あー!せんぱーい!!」
後ろから声が聞こえたと思った瞬間、背中に衝撃が走った。少女は金髪の少年に後ろから抱きついたのである。
金髪の少年――紀田正臣はため息をついた。
「あのなぁ、俺にはもう関わるなって言っただろ」
「そんなの守るわけがない!」
「……はぁ」
正臣はため息を再び吐き出し、頭を抱え込んだ。少女はなぜ正臣がこんなに落ち込む理由が分からなかった。
「せんぱい、せっかく可愛い後輩が来てるんだから喜んでくださいよー!」
「やだ」
今度は少女がため息をついた。やれやれと肩をすくめた少女は、睨んでくる正臣に口元を歪ませ言い放った。
「せんぱいがー毎日来ていいよ!むしろ大歓迎!ウェルカムマイプリンセス!って言ってくれたら、“掃除屋”の仕事を辞めようかなーと考えることもない!」
「いや言わなくても辞めろよ。あとちゃんと学校行け」
「やですよーあんな腐った臭い嗅ぎたくないです!」
「……俺の匂いは大丈夫なんだ」
「せんぱいのは優しくてお日様の匂いです!花丸!」
毎回少女が正臣に会う度に言われるセリフ。正臣は「はいはい、ありがとな」と頭を撫でた。
「んじゃ、今夜こそせんぱい家に「駄目」
「きー!何でですか!!いいです!私、お仕事してきまっむぎゃ」
正臣は離れていく少女を抱き締めた。すっぽりと腕に収まった少女は、目を瞠目させた。
「せんぱ……い?」
「……今夜、仕事休んで泊まってけ」
「はい!泊まります!むしろ住みたいです!嫁ぎます!」
「いや嫁いでいいとは言ってないからな!?」
――少しでも、こいつの手を汚したくない。
正臣はまた少女の頭を撫でた。
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