太陽を覆い隠した月
紀田と女の子

その日は蒸し暑かった。最高気温が30℃で、廊下に出ればすぐに溶けてしまいそうだった。
そんな蒸し暑い日の昼休み、私と正臣は、教室棟から離れた旧棟の一階にある寂れた教室に居た。
ぎらぎら輝く日光も生ぬるい空気も、全てこの小さな教室が遮断していた。二人っきりだから、更に静寂に包まれていて、薄暗がりでいい雰囲気。
広くて誰もいないし、外は暑くてたまらないのに、私と正臣はぎゅうぎゅうと抱き合っていた。

「×、どういう、ことだよ」
「どういうことって、そういうことよ」
「……意味わかんねえ」
「今日は何の日?」
「俺の誕生日」
「そうね」

やっと分かったらしく、正臣は「そういうことか」と呟いた。歳をまた一つ重ねた彼は、あまり去年と変わらない気がした。

「なあ、何かくれねえの?」
「何が欲しい?」
「×が欲しい」
「駄目よ」
「どうして」
「私は私を欲してるから駄目」
「じゃあ×の何かでいいよ」

地べたに座り込んでいた腰を上げて、膝立ちになる。そして、正臣の頭を抱き抱えてぎゅうっと包み込んだ。
ふわふわの太陽みたいな色の髪の毛を、一本一本慈しみを持って撫でる。綺麗、私の漆黒の髪とは全然違う。

「太陽みたい」
「何が?」
「正臣が」
「ふうん……。×は?」
「月でいい」
「うさぎか」
「いいね」

影で暗くなる太陽に、私はほくそ笑んだ。

Happy birthday Kida!!






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