(モーヴはスーパーで働いた経験は職場体験ぐらいですスミマセンスミマセン)
学校の授業が終わると、俺は迷わず職場に直行する。着替えは自分のロッカーに預けられるから、それを利用させてもらっている。 ちなみに俺がアルバイトしている職場は、スーパーだ。
「いらっしゃいませー」
お客様が入店されたら、欠かさず挨拶をすること。これは店長から毎日耳がタコになるくらい言われている。
(桐皇の制服だ…)
さっき入店してきた客は桐皇の制服を身に包み、黒いエナメルを肩に掛け、手慣れた感じでカゴを握った。
(ほお……なかなかの玄人) 「あーちょっと今暇だからさ、棚直ししてきて」 「わかりました」
謎の感心をしていたら、後ろのレジに立っていたおばちゃん(いとうさん)に指示された。確かに客は少ない。レジ停止と書かれたボードを置き、カゴは横に置く。これでお客さんが間違って待つことはなくなるのだ。
(どこしよっかな〜)
乱れているところを直しつつ、進んでいく。あ、桐皇の奴。買い物途中のおばちゃんとぶつかり、ペコペコお辞儀している。腰が低いなあ。 ぼんやり見ていたら、トンっと桐皇の奴は、インスタントコーンスープの山に肩をぶつけた。
「あっ!!」 「っと!」
咄嗟にその崩れそうな山を支え、桐皇の奴を庇った。危機一髪だった。身を縮めるように、腕で頭を隠すそいつに、俺は声をかける。
「大丈夫ですか?」 「っあ、スミマセン…!め、迷惑を、」 「いや、大丈夫ですよ。怪我はありませんか?」
最近になって慣れてきた敬語に、桐皇の奴はコクコクと首を縦に振る。
「よかった……」 「ス、スミマセン…。俺、弁償します…!」 「ああ、大丈夫です。落ちていませんし。立てますか?」
スッと手を伸ばすと、桐皇の奴は顔を真っ赤にさせながら、しっかりと握った。
(落ちるのに、五秒)
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