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「まさか隣に越して来る英語教師がお前だったとはな」
光一は驚きと笑みを含みながら言った。喜んでくれているように感じたのは錯覚だろうか。
「…俺もびびったよ」
柏木先生は「では」と笑顔で手を振って去って行った。俺と光一が昔からの知り合いであることを知って気を使ってくれたらしい。
(…ちょっと待てよ)
下を向いたまま、ぎりぎりと拳に力を込めた。
(おいおいおいおい。待て待て待て待て。これってこれってこれってこれって。)

――1年間、光一の隣の部屋で暮らすのか。

(えええええ!?それはいいのか!?いやいやいやいや!!)
荒れ狂う俺の頭の中。
(無理無理無理無理!!えーちょっいやいや!!どーすんのやばいって)

光一はどんな格好で寝るんだろう。寝起き姿もみることになるのか?まだ本読みまくったりしてんのか?
(あああああ…駄目だ駄目だっ!!馬鹿俺の馬鹿野郎っ)

想像してときめいてんじゃねーよ馬鹿。

「…京平?」
「っ!!」
ふいに顔を下から覗き込まれて両肩がビクッと跳ねた。
「どうかしたか?」
心配そうに眉をへの字にする。こんなふうに、近くで顔を見るのも、ひさし、ぶり。
――といっても、2ヶ月ほど前には一緒に飲みに行ったんだけど。

「な、なんでもない」
手の平をふるふると振って否定を示す。それなのに光一が「でも…」と話を続けようとするからなんとか話題を変えようと、つい、こんなことを口走った。

「―お、お前、こそこの学校来てから、なんか変わったことなかったの?」

「…………えっ」
(え?)

その質問に彼はなぜか目を見開いて、思わず、とでも言うように声を漏らした。ぐに、と眉と眉を引き寄せるようにしてシワを作り不自然に俺から視線をそらす。大学時代と全く変わらない大きくて男らしい右手で口元を隠した。直感みたいなものが、働いてしまった。

(え、嘘)
嫌だ、光一。

「……別に…何も無い」
「………そ、か…、…そっか」

俺は笑顔を作った。うまく、笑えてるかはわかんないけど。

―――なぁ、光一、知ってた?お前、すっげー嘘つくの下手なんだ。

…それでも、俺は
(…気にしすぎ、だよな)

下手くそな嘘に気づかないふりをした。


 



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