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教員が暮らすことになる部屋は、生徒たちのそれよりも少しだけ離れた場所にあった。

梶原先生の部屋はこちらです、と柏木さんは扉に指先を向ける。
「は、はい」
なんだか締まりのない返事になってしまった。

「荷物はすでに部屋の中に運んでもらってあるので、あとで整理しておいてくださいね。」
彼は駆け寄って来る俺に優しくそう言って、右手の甲でさっき指差した左隣りの扉をノックした。コンコン、と軽い音が響く。
それだけで柏木さんが隣の部屋の先生を紹介してくれるんだとわかった。パタパタとフローリングを歩く音がが近付いて来て

ガチャリ、内側からドアノブが下ろされた。

「――はい」

(え)
ドクン、と脳よりもずっと早く心臓が

久しぶりに聞くその声に反応した。


 

「おはようございます」
柏木さんが爽やかに挨拶すると、
「………おはようございます」
ぬっとりとした返事が返ってきた。一字一句違わない挨拶なのに、発する声帯が違うとこうも暗くなるのか。先ほど大きく跳ねた余韻なのかも知れない。心臓がどきどきとかわいらしく脈を刻む。

「こちら、今年から赴任してきて先生の隣に住むことになる梶原先生です。仲良くしてくださいね」
「……かじわら?」

はい、なんて彼は返事をしたけど、たぶんその人が求めている答えはそれじゃない。少ししか開けていないせいで、俺の顔は扉の陰に隠れてみえない。
ゆっくりと
彼は扉を開いた。
心臓が駆け足を始める。壁に外側のドアノブがぶつかるまで開いて、彼は俺をその目にうつした。

「……京…平…」
彼は藍色のジャージを着用していて、中学時代に還ったみたいな気がした。
「…久しぶり」
どうしよう。
馬鹿だけど不純だけどルール違反だけど、会えたのが嬉しくて体が震える。状況が飲み込めず、視線で俺と光一の顔を行き来する柏木先生に、ある程度のあらすじを伝えた。

「そんなことってあるんですね…」
彼は本当に驚いた様子だった。

あるんですよ。…ずっと追いかけて来たから。


 



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