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ずしんと胸の辺りだけ重量が増している感じがする。脳内は薄い霧がかかっているようでとろんとしていてはっきりしない。自分の部屋で普通に座っていることがどうしてか出来なくなって、まだ校内に人気のないうちに職員室へ来てしまった。だからここには俺だけだ。
「馬鹿か…」
自分への罵倒をため息まじりに吐き出す。どうにもこうにも余裕がなくて困る。公私混同もいいとこだ。
主の居ない隣の席に視線をやる。プリントやら資料やらでぐちゃぐちゃの俺の席とは正反対の光一の席は、本人が乗り移ったようにあいつの性格がよくでていた。年代別にならんだ資料、新品と見間違うほど綺麗なノートパソコン、あいつのいつも座っている椅子。あいつが居た証が染み込んでいるというだけで、ただの文具や家具がどうしてこんなに愛しいんだろう。

(あー乙女チックな思考回路)

馬鹿だってわかるのに、嬉しくて。垂れる目尻と緩む頬は正直で、人工的には作れない柔らかな笑みを築く。
両腕でひし形をつくって顔をうずめた。
じわじわと侵食するような歯痒い感情が胸の辺りから全身に広がる。

譲れない。
譲りたくない。
大人げなんかなくていい。
馬鹿でいい。
好きだ、どうしても。
好きなんだ







「京平」
「あ、光一…」
あいつが俺を呼んだ。暖かい日差しが彼を押し出すように照らしている。
白い光を絡めとる黒髪が本当に綺麗で、どくりと心臓がはねた。
「ったく、珍しく早くきてると思ったら寝てるなんてな。」
「ん…?」

体を起こすとぴりぴりと頬が少し痛痒さを訴える。首を回すと彼はやれやれといった感じで自分のイスに腰を下ろした。
「へ…っあれなんで光一居んの!?」
「なんでって…悪いがここはオレの職場でもあるんだよ」
彼は黒い眉を寄せ合いシワを作る。苦いものでも噛んだような表情だ。
「あれ、っ寝てた!?うそまじかよ」
「だからそう言ってるだろ。頬にアトついてるぞ」
「うえっ」
非常に間抜けな声が出た。
触れただけでわかる、頬についたあと。ごしごしと痛いくらいに強くこすった。少しずつその場所の温度が上昇する。
「夜ふかしでもしたか?」
「違う…けど」
どれもこれもお前のせいだ!!…言わないけど。

ふたりきりの、いつもどうりの、やわらかくて、あったかいような、そんな時間が、しみるように痛い。いちいちこんなことを考えている俺がおかしいのだろうけど。

「――しまった」
「え?」
隣でカバンを漁っていた光一が、先ほどと1ミリも表情をい変えずに言う。心がこもってなさすぎるだろう。
「忘れ物をした。取ってくる。」
「へぇー桜場先生がそんなミスおかすなんて珍しいこともあるんですねー」
「居眠り教師に言われたくないな。じゃあ、失礼」

言わなくてもいいような嫌味を置土産として置いていくところが光一らしい。
(忘れもんとかしたときは便利だよなぁ〜寮ってのも。ちょっと遠いけど。)

彼の足音が去っていく。
そしてその反対に近づいてくる足音があった。

「梶くん」

 



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