「そういえば」
話し出したのは光一だった。別に返事をしたわけではないが出だしを言った彼の声に自然と耳の意識が集中する。
「お前がオレの部屋に来て、酒を飲んでいた時の記憶が途中からないんだが、お前いつ帰ったんだ?」
「え」
脳のどこかにあるであろう聞き取って言葉を理解する機能よりもきっとずっと早く俺の口から驚きの声が漏れた。
「ん?」
俺の様子に違和感を覚えたのか眉間にひび割れをつくって俺を上目遣いに睨む光一。
(記憶が、ない?じゃあ)
もしかして清水とのことも、酔っ払って起きた偶然だったり?
(ってそんな偶然なんかであんな体制になってたまるか)
俺は勝手に自分に都合のいいように解釈しようとする自分を制した。
「なんでもない」
ということにしておこう。そのほうがいいだろ?お互いに。
それから数時間後のことだ。
「ふぁく…」
あくびというのはどうしてこうも的確に人間いや生命体の顔面を不細工にしてしまうのだろうか。自然と出る手で口元を隠しながら片目をつぶり一発。
(昨日あんまり寝れなかったしなぁ…)
勝手に暗い方向に進んでしまう思考回路に嫌気がさすがまぁ仕方ない。
ふぅと息をついてから右目で光一を見た。酔っ払っていたときと同一人物には見えねぇなぁなんて思いながら時計を盗み見て声をかける。
「……………………」
「…桜場先生、お昼どうしますか?いつも通り食堂で」
「……………………」
「いいです…か?」
彼はぴくりとも動かない。変だとしか言いようがないけど、俺には話し掛けるくらいしかできないらしかった。
「桜場先生?」
「…………」
無言だ。
(仕方ねーなーもー)
「光一!」
「っ!」
彼の肩が大袈裟に跳ねた。
「あぁ京平か…」
なぜか安堵したように言うのが気に入らなかったけど、とりあえず俺がやるべきことは心配だ。
「どーかしたんですか?ずっと名前呼んでたんですけど」
「すみません、考え事をしていました」
昔馴染みのくせに互いに敬語を使って距離を置く。
「考え事?」
「…はい、…………生徒がキスマークをつけていたんですが」
「キッ」
(キスマーク!!?)
俺の目はぐわりと開いた。
(キスマークってやるなぁおい、俺だって最近そういうことしてねぇのに…うらやま…じゃなくてていうかここ男子校だろが。え、なになんですかホモですかそうですか)
「に、二年生ですか?」
「…三組の、清水…でした」
(え)
だったら犯人お前じゃん。