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がらり。扉を開けた。そのスライド式のドアは紛れもなく職員室のそれであり、もしかするとあいつが居るかもしれないと心臓が少し慌てていた。
(あ)
あいつはいなかった。
(よかった)
まぁ今会わなくても彼が来てしまえば会うわけだからあまり意味はないのだけど、俺はほっとした。
(くそ、)
別になんてことはない。もともと諦めようとしていた相手には想い人がいたというだけで。だから俺の現状は変わらないはずだというのに、座るために椅子を引く俺のてはかたかた情けなく震える。
「…ふー…」

俺は大人だ。
だから自分の感情の変化に馬鹿みたいにうろたえたりはしない。

「梶原先生?」

顔を上げるとそこに居たのは首を傾げるように俺に語りかける柏木先生。
「な、なんでしょうか」
「いえ、挨拶しても返事がなかったのでどうされたのかと思って」
(挨拶されたのか)
全く気づかなかった。

「体調でも悪いんですか?」
「いえ、そんなことないですよ。すみません」

俺は綺麗に笑った。



ぐわりと扉が開いたのはそんな小さな言葉のキャッチボールの後だった。

「おはようございます」

「…おはようございます」
俺は彼の言葉をそのまま返した。彼を見ないのは俺が今自分の鞄から必要なプリントや文房具を出さなければならないからで、他意はない。
彼は柏木先生にもきちんと朝の挨拶をして、柏木先生も同じものを彼に返した。
「柏木先生、」
「はい」
立花先生が呼んだ。
「荒屋先生からお電話です」

(またか)
たぶん職員室中の教師が同じ感想を持っただろう。なぜか荒屋先生からパシリ扱いを受けている柏木先生には保健室からよく電話がかかってくるのだ。
「もしもし荒屋先生…?」
柏木先生が受話器を取り、光一は席につく。
「甘い物って、…俺をなんだと思ってるんですか」
(パシリだと思ってるんだろうねぇ…)
いつもは怖いくらい口調の整った柏木先生は、理由はわからないけど荒屋先生との電話のときだけ少し砕けた口調で話す。まぁほんの少しだけど。…そういえば俺は荒屋先生と話したことがないかもしれないなぁと唐突に思った。



 



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