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「なんかあった?」
「…え」
長谷川はいつも突然だと思う。首を傾げて俺の顔を覗き込むようにして問われると、一瞬何を言われたのかわからなくて思わず聞き返してしまった。
「…なんか今日の梶くん変だな」
「…べつに」
こいつは、こんな風によく笑う生徒だっただろうか。後藤やら清水やらと喋っているときなんかもっと乱暴な言葉遣いだった気がする。
(…"清水"、か)
体に静電気が走ったみたいにピリッと冷たい感覚が走った。清水が悪いわけではないのだけど、惚れた奴の好きな人間にいい印象を持てるわけがない。
「……」
「…なぁ…梶くん」
「その梶くんってのやめろよ。」
「えー」
「えーじゃない。お前と俺は教師と生徒なんだ。その辺忘れてんじゃないだろうな」
「忘れるわけないだろ」
「…」
きっぱりと彼が言うと、どうしてか俺は顔を伏せた。正直対応するのがめんどくさい。
わかってるよ?生徒の相手をするのが教師である俺の仕事だし。それをすべきってのはわかる。
(…けど…)
昨日は俺にとっては大きなことが起きたから、あんまりうまく笑える自信がない。

「…やっぱ聞かない」
「え?」
俺は顔を上げて声のしたほうをみた。
「なんかあったのかって聞こうかと思ったけどやめるよ。」
彼は詰め寄るように近づいてきて、俺の足は二人しか居ない廊下に縫い留められたように動かない。くしゃり、と柔らかそうな音と同時にひんやりとした温もり。背が高い男だと、思った。

「オレはまだそれを聞ける位置に居ねぇから」
じゃね、と彼は体を反転させて俺に背中を向けた。長谷川の大きな右手が居なくなった前髪辺りに手をやると少し湿っていた。

「ぬ、濡れた手で触るな!」
やっぱり調子が悪いようだ。怒るところはそこじゃない気がする。小さくなっていく大きな背中を睨んだ。冗談じゃない、男に頭撫でられるなんて。気持ち悪いんだよばか。
「あ、そうだ梶くん」
「…その呼び方やめろって」
「もしかしたら、僕が早く起きたのは偶然じゃないかもしれませんよ」
「…は?」
長谷川は消えて行った。
まぁたぶん自分の部屋に帰ったんだろうけど。

…わけのわからん生徒だ。



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