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真っ暗な廊下を月明かりがじんわりと光らせて、ぴんと張り詰めたように、昼とは別世界のこの場所は意地を張るように沈黙を守る。
俺の足音だけがその静寂を破っていく。
何となくセンチメンタルな気分を味わわせてくれるこの真夜中という時間。
(寒ぃな…)
春といってもやっぱり夜は気温が低い。俺としても暖かい室内へ早めに帰りたいので、先生をさっさと連れて来ないといけません。
「こーいちー」
一応呼んでみる。そりゃぁまぁトイレに居るんだったら意味ないけど。
かつん。
(見合いか、見合い…)
かつん。
(結婚…)
かつん。
今思えば俺の片想い期間はびっくりするくらいに長くて、気付いたら俺達は大人になっていた。いつまでも子供でいれるなんて思ってたわけじゃないけど、
時間の流れは
重くて
(…中学んときからだから10年…?うっわばかみてー…でも高校は別々だったし…彼女いたりもしたけど…あーでもすぐ別れたりしたもんなぁ…やっぱ10年…長…あんなヤツに10年も)
いらいら、してきた。
なんでアイツなんかあんなヤツなんかなんで帰って来ないんだよトイレ長ぇよどこまで行ったんだ
「…っ」
ぎゅぎゅっと握り拳をつくる。探すのなんかめんどくさい。いーやでっけぇ声で呼んでやるよ。
「光一ぃ〜っ!!」
「うわぁ!?」
「…ん?」
俺が名を呼んだ奴が発するはずのない悲鳴が聞こえた。奇声を上げたそいつとは距離があるのか声自体は小さくてあまり俺は驚かなかったけど。
(こんな時間に…生徒か?)
寮に居てつらいのは学校をでても、ずーっと"教師"で居なくてはならないこと。正直怒るのにも体力つかうからめんどくさくなったりもする。(…ほっとくわけにはいかないんだよなぁ…)
小走りをして声の発信源へ向かう。こんな夜中に何かあったら事だ。
「かっ…っか、梶原っ!?…先生っ!?」
そいつは俺を一旦呼び捨てにしてから、強引に『先生』を付け足した。
この声は2年の、清水蓮か。
「清水?お前、こんな夜中に何し―…」
ただ声をかけようとしただけだった。それでも、俺の喉は途端に動かなくなって、ばちっと見開いた瞳は渇いていく。時間が、
とまったんじゃないかな。
(え、嘘、なんで。あぁ酔っ払ってたからなぁはは。だからあんまり飲むなって言ったのに。こりゃあ帰り遅くなるわけだよ。つか清水に酒飲んだのばれちまったなぁ。てかこの状況って、まずくね?光一訴えられたら終わりじゃんか。おいおい。わーおなんか漫画みたいだなこんなことってあんのかよ男子高って怖ぇな。実は夢なんじゃねーの夢オチとかやばいな。えーと、どうしましょうか)
光一が、
清水を抱きしめている。
なぁ、誰か嘘だって言えよ。頼むから。



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