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彼が酔っているせいだろうか。
いつもの鋭い黒目からは完全に覇気が消えていた。…それなのに、黒は俺を吸い込んでしまうように深くて一度視線が交われば逃げることはできないんじゃないかと思わせられる。
「……っ」
彼はテーブルに肘をついて体を前に倒して顔だけを上げているから上目遣いに見つめられる。
かぁ、と頬が熱くなるのはアルコールのせいじゃない。
(なんでだっけ。)
いつからこんなに好きになった。なんでこんなに好きになった。どうしてこんなに逃げられない。
「…トイレ」
「…」
じぃとお前は俺を眺めて、まるで一時停止ボタンを押したように俺の瞳には同じ光景が映し出されて
「はぁっ!?」
「…便所、に、行、く」「………」
あきれた、と俺は小さなため息を吐き出して、光一のほうへ手を伸ばす。
「…なんだ」
むっと唇を尖らせた光一はまるで10代の少年のようで可愛いなぁとか俺は思ってしまうのだ。
「支えてやるよ。一人じゃ行けねーだろ?」
「馬鹿を言うな。」
じろっ、と俺を上目遣いに睨んで光一は立ち上がる。
「ひとりでいく」
「え、」
横をすいっと切って行った光一の背中は完全に酔っ払いのそれで、まぁ夜中だしトイレまで徒歩3分もないから大丈夫だろうけど俺の心中は穏やかじゃなかった。
ばたん。
扉が閉まる。
どうして俺はこのとき、半ば強引にでもついていかなったんだろう。後悔する瞬間が刻一刻と迫って来ていた。
 
「…遅ぇ」
家主の居ない部屋に、俺の声がぽつんと浮かぶ。こうでもしないと時計の針の音くらいしかしないから。
光一をトイレへと見送ってどれくらい時間が経ったろう。いつになったら帰ってくるんだ桜場大先生は。
遅いにもほどがあるだろう。どうして徒歩数分、 ヘタをすれば1分かからずたどり着く距離へ用を足しに行って20分も30分もかかるんだ。
(…どっかで倒れてたりしてな)
ほお杖をつきながら廊下に大の字に寝転がる光一を想像してふいた。有り得な過ぎる似合わ無さだけは評価できるよ。
「…仕方ねーなー…」
はぁあと誰かに言い訳するようにため息をついて立ち上がる。一応俺も呑んだ後だからくらりと視界が揺れたけどまぁ大丈夫。
さーて、大先生を迎えにいきますか。



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