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彼は黙り込んでしまった。
「…………、」
そうなったら俺だって口を閉じるしかないけれど、俯いた光一の黒い頭を見てたって、何にも起きない。
「ま、まぁ言いたくないんなら良いよっ」
無理矢理作りあげた明るい声を喉から発して、後ろ手をついた。
「…見合いを、することになった。」
「…、え?」
聞き間違いだと、思った。だってまだ24だし。今年25だけど。
「…父の病院で契約をしている薬品関係の会社の令嬢だそうだ」
「…マジで言ってる?」
だらだら汗が体を這う。だってだって、さ。
(結婚、しちゃうの?光一…)
もちろんただの見合いってだけで、まだどうなるのかわからない。けど突然予想外のことを言われて頭が正常に働いてはくれない。
「こんなこと、冗談で言うか。」
(結婚しちまったら、もうホントに俺と光一がくっつくこと無くなるよ、な…)
わかってるけど、でもどっかでまだチャンスがあるんじゃないかって、そんな期待が言葉のバズーカで吹っ飛ばされた感じがした。「そ、それで急に恋愛の話になったわけだ」
どくんどくんと心臓がうっとうしくも早鐘をうって、しかも嫌な冷や汗みたいなのも止まらない。
社会人になってから、作り笑いは得意になったつもりでいたのに。
「…っはは、教師になってから電話すらよこしたことなかったのに、ふざけてると思わないか」
「…!」
(光一…)
彼の家はそりゃもう大きな病院をやっていて、彼もそれを継ぐはずだった。…それなのに彼は親を振り払うようにして教師になった。そうじゃなければ俺と光一が大学で出会うことは無かったわけだけど。(…嫌、だ)
「………するなよ」
「え?」
俺の声が小さく響いた。
弾かれたように顔を上げて、光一は見張った目を俺の方に向ける。
「見合いなんか、するな」
傾けると、とぷんと缶の中でビールが鳴った。
結婚なんか考えるなよ。頼むから、…なぁ
「…だが、」
「だって光一はしたくねぇんだろ?」
「!…あぁ」
わざと言葉を遮ってやると、彼はまた顔を伏せた。
「だったらしなくていーじゃんか。お前は医者じゃなくて教師なんだしさ」
「…確かに、そうだが」
「だろぉー?それに俺達まだ24だぜ?見合いなんか早いって。」
「………」
「結婚なんて一生のことじゃん。ちゃんと自分で選んだ人とするべきだと思う」
――なーんちゃって。
…全部、嘘。カッコイイね、俺。…いや、ホントにそうは思うけどさ?まだ早いって。…でも実際は、ただ俺が光一に見合いして欲しくないだけ。
まだまだ好きで居るつもりの、往生際の悪い俺。



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