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「失礼しまぁーす…」
「なんだよそれ」
笑みを含んだ低い声が頭上から降ってきた。
「別にいいだろぉー」
靴下に包まれた足をひたりと光一の部屋に入れる。キシ、とフローリングがお出迎えの挨拶をくれた。
「早く来いよ」
「はいはいはい」
(こっちがどんな風に思ってんのかくらい気にしろよなぁ)
光一の部屋はあまりに綺麗で、明日は自分の部屋を掃除しようと思った。
リビングの中心に置かれた低いテーブルにはすでにビールが置いてあった。まだ空いてないけど。
光一は座布団の上に腰を落として、まだ立っている俺に缶突き付けた。
「サンキュ」とそれを受け取って、座りながらプルタブを引く。プシュ、と空気が弾ける音がして、独特の香りが鼻をついた。
かつん、と銀色と銀色をぶつける。
「乾杯」
「…乾杯」
…何十分くらいたったんだろう。
「大丈夫かぁ?」
「ふ、はは、よゆーよゆー」
すっかり出来上がっちゃった光一はテーブルにべったり突っ伏して、気持ち悪いくらい口元を持ち上げていた。
(酒弱いんだっけこいつ…)
もっと早くに止めとくべきだったなぁ…と後悔しても光一が素面(しらふ)に戻るわけじゃない。
(…なんかあったのかな)
今日は、正直ずっと変だった。イライラしてるような悩んでるような照れてるような…わけわかんねぇ。
「どーしたんだよ。なんかあった?」
「なん、か…?」
焦点の定まらない光一の視線はふらふらと俺がいる辺りをうろつく。
「ってこら、もうやめとけって!」
「ぁ!」
まだビールをあけようとする光一の手の平から缶を奪ってやる。
(まだ飲む気かよ!)
「…愚か者」
「はぁ!?」
ニヤリ、と歯を見せた光一は、テーブルに置かれた缶を掴んだ。
「貰うぞ」
「ぇ!?あ、ちょっ」
(それ、俺の…っ!!)
俺が口をつけた部分に、光一の唇が触れる。
くいっと傾けると金色が光一の口の中に入っていく。
溢れた泡と金色が光一の口元から少しだけこぼれ、頬を伝って首の辺りに向かった。
ごきゅ、と喉がなる。
(いや、待て待て馬鹿。気にするな。意識すんな馬鹿。中学生じゃねぇんだからっ)
これは、
間接キスである。
「っは、…美味い」
「……お前なんか嫌いだ…っ」
人の純情振り回しやがって。だいたい光一は、俺に隙をさらけ出し過ぎなんだよ。
(…そりゃ、嬉しいけどさぁ)
「……京、平」
「…なんだよ」
いつものような迫力がない。優しめの声に小さく呼ばれてどきっとした。
…口のほうに目がいくのは許して欲しい。ビールのおかげてきらきら光ってる唇は、何て言うか…色っぽい。フェロモン垂れ流しーって感じで。
「お前彼女とかいるのか?」
「…はい?」
突然過ぎる問いに俺は思わず顔を歪めた。
(恋ばな!?俺らが!?)
というよりも、光一は恋愛トークが似合わな過ぎる。
「いるか?」
「いねぇ…けど…」
誰かさんのせいでな。
「意外だな、お前モテるだろ」
「…モテたって好きな奴に好かれないと意味ないだろ」
とかなんとか、キザなことを言ってみる。光一はぱちくりと目を見張って、まさに"驚きましたー"って顔をつくった。
「……そうだよなぁ…」
(…光一?)
顔を伏せてしまったら、前髪で隠れて表情を確認できない。
「マジでなんかあったのか?」
「………………」



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